モーツアルトの魔笛は神秘的なオペラで謎も多く皆様ご存じのようにおびただしい数の研究書が出版されています。
フリーメーソンとの関連の研究が有名ですが私の印象に残っておりますのは昭和ミステリー界の重鎮、故松本清張氏のゾロアスター教との関連性でした。これは短編の「モーツアルトの伯楽」を読めばよく分かります。大変ユニークで夢を膨らませてくれます。
難しい研究は置くといたしましても魔笛は歌い演じる立場から見ましてもキャラクターがいずれも神秘的な存在です。例えばタミーノは遠い国から来た王子となっておりますがどこから来て何故放浪しているのでしょうか?パパゲーノは人でしょうか、それとも鳥の化身でしょうか?ザラストロと夜の女王の関係は?タミーノに課される修行の意味は?
魔笛と呼ばれる笛の意味するものは?などと考えれば次から次に疑問は湧いてきます。
その中でいつも私が不思議に思うのは弁者の存在です。
この役が歌う部分は楽譜の中ではほんの数ページでしかもタミーノとの対話のレシタテイーボです。
しかし数多くの魔笛のCDでこの役を歌っている歌手たちを見ますとシェフラー、ホッタ―、ヴェヒター、F ディースカウ、ヴァン ダム、ロータリングなどキラ星の如く一流のバス、バリトンの名前を見ることができます。
魔笛のバスのキャラクターにはザラストロがおります。ザラストロには独立したアリアが2曲あり台詞も多くいい役だと言えますが弁者を歌う歌手と同じ格か少し若い歌手に振られるケースが多いようです。
これは何故か考えてみました。
ザラストロは国を治める統治者として君臨して弁者はその配下ということになっています。
しかし弁者の存在感はかなり強いものがあります。
楽譜上ではただタミーノを問い質す人にしか見えませんが実はかなり位が高い人ではないでしょうか。
古いヨーロッパの社会では王権と教会の権力は並立しておりました。教会の権力は時には王を凌ぐものでした。
オペラをお好きな方はヴェルディのドン カルロのフィリペと宗教裁判長のバス同士の重苦しい対話を思い出すのではないでしょうか。
もしかしたら弁者は法王のような権力を持つ影の支配者ではないでしょうか。
要するに黒幕です。
表向きはザラストロが支配しておりますから滅多に表には出てきません。さらに想像をたくましくいたしますと引退した過去の支配者、会社に例えますと会長なのかもしれません。
ただ私の乏しい見聞から申しますと出番が少ない故かどうも弁者の影が薄い公演が多いようです。演出も演じる側も深く考えないのかもしれません。
深読みしないでスルーしてしまえばそれはそれで成立します。
私はひねくれておりますのでそれでは面白くありません。
ザラストロの国も明るいように見えてモノスタトスに支配されている奴隷たちが居るわけでけしてすべての人たちが幸せとは言えないようです。
階級が歴然とあり差別もある西洋社会の縮図と思えば分かり易いのかもしれません。
ザラストロは偽善者で嫌いだと言った方が居りましたが確かに2曲目のアリアの歌詞はまるで選挙演説のようです。
パミーナを母親のもとからさらってくるのですから汚い仕事にも手を染めていそうです。
ザラストロと弁者はきれいごとでは済まされない政治や外交の世界に生きている男たちだと思います。
パミーナは母親である夜の女王が闇に沈んだ事を悲しまなかったのでしょうか?
それとも何も知らされなかったのでしょうか?
魔笛の物語はファンタジーであります。考えれば創造の輪はいくらでも広がります。
私はそれを始めると飽きることを知りません。
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