昔々まだヨーロッパに日本人があまり遊びで旅行していない頃、そうですね40年くらい前の話です。医学会がミラノであった事がありました。知り合いのミラノ大学の先生がスカラ座のロジェ(日本で言えば歌舞伎座の桟敷ですね)を持っていました。そのころは一階や二階のロジェは古くからのミラノの家が年間通して持っていました。
今はそうでもないのでしょうけれど。オペラが好きなのですと、会話の中でふと漏らしたら、「明日フレーニがアドリアーナ・ルクブルール」を歌いますよ、よかったらロジェを譲りますので、行きませんか?」と言って下さいました。もちろん大喜びで御厚意に甘え、勇んで出かけました。で入口を入って、大階段のところで記念にと写真を撮っていました。
そこへ、礼服の案内人に声を掛けられ、叱責されました。そのころは何処の歌劇場でも、そこで何十年も案内人をやっているような方たちが観客の出入りを仕切っていました。今は若いバイトさん達にどこの歌劇場もなってしまいましたけれど、とても残念です。あれはあれで、劇場の格というか、伝統を観客に知らしめていたと思います。
脱線してしまいましたが、怒られた話です。私達が持っていたチケットがロジェのチケットだったので、ちょっと態度が軟化して、席まで案内してもらう間にいろいろと写真を撮ってはいけない理由を説明してくれました。歌劇場は大人の社交場であること、正式な配偶者と来ていない人もいること、そこで写真を撮られ万が一にも新聞に載ったりするとさすがに困った事態になること、人々はたとえ大統領が愛人と来ていたとしても、見て見ぬふりをすると、歌劇場というのはそういうところだ、と教えてくれました。
なにかヨーロッパも昔の日本とちょっと似ているなと思わされました。昔おじさんがおばさんではない女性と歌舞伎座に来ているのにばったり会ってしまったことを思い出したりしていました。その夜はフレーニのルクブルールで、中継?録画?だったのかTVカメラが入っていて、ブラボーの声もすごかったのですが、ブイヨン公妃の声しか覚えていません。
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