オペラバフのドン・ジョヴァンニで4月11日のタイトルロールを歌う岡野守さんが寄稿してくれました。
演者としてリブレットを深く読み込む技術は彼ならではです。
どうぞお楽しみください。
オペラバフ 制作
書かない作家?!ロレンツォ・ダ・ポンテ…No.1
次回の公演、モーツァルト作曲オペラ『ドン・ジョヴァンニ』について、書かせて頂こうと思います。『ドン・ジョヴァンニ』は古今東西、数多くの方が作品研究・批評をされています。哲学者をはじめ、指揮者、演出家、音楽学者、批評家…高名な方々の著作があるなか、いまさら私が書くのもどうか、とは思いますが、歌い手からのアプローチは少ないかと。近頃ではインタビューなどで歌手の発言もありますが、あまりアナリーゼなり、台本への言及なりは多くありません。今回はその辺りを中心に、実際に舞台に立つ人間がどんなことを考えているか?を書きたいと思います。
さて、表題を「書かない作家?ロレンツォ・ダ・ポンテ」としましたが、何を書かないか?というと、「全て」を書かないと言うことです。例えばこのオペラ、1幕のラストでドン・ジョヴァンニはツェルリーナを手篭めにしようとした悪事がバレて、みんなに囲まれる…という危機に陥りますが、さてどう逃げおおせたのか?は書かれていません。レポレッロのアリア「カタログの歌」でも、「ウチの旦那は、お相手がスカートさえ穿いていれば、何をするか…ご存知でしょう?」と歌いますが、実際になにをするか?は書きません。他にもいろいろありますが、今回のお題は「ドンナ・アンナはドン・ジョヴァンニとどこまでいったのか?」です。これもハッキリとは書かれていません。みなさん、このふたりの間に何かあったと思われますか?
このオペラの幕開きは、レポレッロの主人、ドン・ジョヴァンニがドンナ・アンナの部屋に忍んで行き、その帰りを待つレポレッロの独り言から始まります。そこへドンナ・アンナに追いかけられてドン・ジョヴァンニが現れます。彼らの最初のセリフは、こうです。
Ch’io ti lasci fuggir mai.
私があんたを逃すなんて。
Chi son io tu non saprai.
私が誰か?お前が知ることはない。
この会話、おかしいとは思いませんか?
私の感覚だと、「待ちなさい!」と言われたら「やだよぉ~!」だし、「逃がさないわよ!」と言われたら、「やれるものなら、やってみな!」です。「Catch Me If You Can」(映画にありますね!)でしょう。でも、ドン・ジョヴァンニは「逃げる」「逃げない」や「捕まる」「捕まらない」の話はしません。彼の答えは「私を知ることはない」です。単純には筋が通っていません。これが成立するには、その前に…ドンナ・アンナの部屋で?…何があったか?どんな会話をしていたか?が重要です。
私が思うには、ドンナ・アンナがドン・ジョヴァンニに「あなたはだれ?身分は?どこの方?」みたいなことを質問したのでは?です。それに対し、彼は何も答えずに逃げ出した。それにキレたドンナ・アンナは「アンタ、何も言わずに出て行く気?ふざけんじゃないわよ!」と追いかけた…。これなら筋は通りませんか?そして、ドンナ・アンナがドン・オッターヴィオに語ったところによると、その日の夜のドン・ジョヴァンニとの間に起こったことは、こうです。(ドン・オッターヴィオの台詞は飛ばしてあります。)
このセリフ(台本)、どう思われますか?ドンナ・アンナの言葉が全て本当にあったことなのかもしれません。ただ、そうだとしても私は、少々違和感を持ちます。それは次回に!
岡野 守 プロフィール
バス・バリトン。イタリア・モデナ在住。
早瀬一洋、Arrigo Pola、Carmela Stara、Luciano Berengo、Giuliana Panza に師事。
ペルゴレージ作曲『奥様女中』(Uberto)、モーツァルト作曲『ドン・ジョヴァンニ』(Leporello)、『コシ・ファン・トゥッテ』(Don Alfonso)、ロッシーニ作曲『セヴィリアの理髪師』(Don Bartolo)、ドニゼッティ作曲『愛の妙薬』(Dulcamara)、ヴェルディ作曲『運命の力』(Fra Melitone)、ビゼー作曲『カルメン』(Dancairo)、プッチーニ作曲『トスカ』(Il Sagrestano)、『ジャンニ・スキッキ』(Gianni Schicchi)、『トゥーランドット』(Ping)等を歌っている。藤原歌劇団団員。
オペラを中心に声楽家として活動していたが、師匠たちから「お前は、私の知らないことばかり知っている!」「Musicologo(音楽学研究家)もやれ!」と言われ、良い気になって、雑学的音楽コラムを書き始める。















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