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アリアドネの上演に際して

写真 中橋健太郎左衛門

「ナクソス島のアリアドネ」という稀有な作品と関わることができ、音楽家としてはとても幸せです。

我が国のクラシック音楽界わけてもオペラ界では歌手、音楽スタッフ、オーケストラ奏者、演出、裏方、制作に至るまで全てにおいてヴァーグナーやR・シュトラウスの経験が圧倒的に不足している状態です。

それは専門の優れた歌手が必要であるという思い込みや勘違いから食わず嫌いの音楽家を大量発生させている嘆かわしい現状であり、私としては微力ながらその風潮に対して抵抗を続けていきたいと常々考えておりましたので、今回の上演は願ってもない機会であり、気合が入っております。

19世紀以降のレパートリーを扱う音楽家にとりましてベートーヴェンに関心を払わないのは怠慢と言えます。
同じことがヴァーグナーにも言えます。
ヴァーグナー経験がほぼ無い状態でブルックナーやマーラーなどは理解が難しいのではないでしょうか?

そしてR・シュトラウスはオペラ史の流れを汲みつつ、ヴァーグナー遺産をモーツァルト的に昇華させた存在と私は感じます。
この作曲家はオーケストラにとって演奏し甲斐のあるレパートリーを多数提供しており数々の交響詩は技術的な難しさがあるにも拘わらず頻繁に演奏されます。
中でも「英雄の生涯」は記念碑的大作との認識で、オーケストラの○○周年のような節目によく取り上げられます。

しかしこの「英雄の生涯」は傑作ではありますが19世紀に作曲されており、オペラでの最初のヒット作「サロメ」が1905年ですからベートーヴェンに例えますと交響曲の二番くらいの位置付けではないでしょうか。

ベートーヴェンが音楽史上に燦然と輝くのは交響曲であれば第三番「英雄」以降です。
もしこの「英雄」が無かったとしたら音楽史も違った展開になっていたでしょう。

さて、サロメ、エレクトラ、薔薇の騎士と重要作を連発していたR・シュトラウスが前作までの大編成オーケストラから打って変わり室内楽編成の精緻なオーケストレーションを縦横無尽に展開したのが本作です。

作中にはオペラの現場でお馴染みの典型的な人物が次々に我も我もとそれぞれの立場を主張しつつ登場します。

プライドの高いプリマドンナ、芸術に最高の価値を置き夢想癖のある作曲家、芸術の価値を認めつつ浮世を生きる音楽教師、知性より自分の声だけに興味のあるテノール歌手、女声として魅惑的なダンサー、音楽そのものに批判的な舞踏教師、賑やかな喜劇役者たち、妖精役の女子会ノリのお嬢さんたち、お屋敷の執事や召使、職人たちは彼ら芸術家たちには冷淡です。

序幕は以上の人物たちのドタバタ劇が展開されますが、モーツァルトのレチタティーヴォ セッコのような会話劇が、見事な転調と拍子の巧みな転換で表現されます。

キャラクターの中でR・シュトラウスがツエルビネッタと作曲家に愛情を注いでいるのは明らかで、前半のドタバタ劇はやがて虹のような変化を経て、いつの間にか陶酔的なメロディと豊潤なオーケストラの響きの中にお客様はもとより出演者をも魅了することでしょう。

音楽に対してとにかく上から目線で馬鹿にする舞踏教師には、わざわざ「アリエッタ」と注釈をつけてまで凡庸な音楽を与えており、構造自体が喜劇的で、スコアを読むと思わずニヤリとさせられます。

後半は劇中劇で、これこそが「ナクソス島のアリアドネ」であり、喜劇と悲劇が交代で表現されます。

オペラを含むすべての舞台芸術において劇中劇の手法は珍しいものではありませんが、劇中劇の終わりが劇そのものの終わりであるという構成は興味深いものです。

プリマドンナ扮するアリアドネとテノール歌手が歌うバッカスの二人のメロディは、雄大なスケールで陶酔的かつ官能的に描かれており、トリスタンとイゾルデを想起させる締め括りとなっています。

私はいつもアリアドネの音楽そのものには感動させられるのですが、よくよく考えてみると
「ハテ、我々は、一体何を観せられ、何に感動しているのだろう?」
と不思議な感覚に陥ります。

ギリシャ文化やオペラ史を踏まえたうえでの含蓄に富んだ本作でありますがR・シュトラウスのスコアは紛れもなく傑作です。

そしてこの上演のために、最高のメンバーが集まってくれました。

どうぞ最後までお楽しみいただけますように!

会場でお会いしましょう。
心よりお待ちしております。

中橋健太郎左衛門

公演チケットのお申込みはこちら - ナクソス島のアリアドネ

 

 

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