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序幕の人々 その一

オペラバフは9月16日、17日に調布市文化会館たづくり・くすのきホールにてR・シュトラウスのナクソス島のアリアドネを上演いたします。

日本のオペラファンにとりましてR・シュトラウスのこの名作は正直申し上げて馴染みがあるとは言えないでしょう。
ただいつも同じような演目、例えば椿姫、ボエーム、愛の妙薬、ルチアなどをご覧になっている方たちには少し気になる選曲ではないでしょか?

なんとなくR・シュトラウスのオペラは敷居が高いとお感じになっている方は多くいらっしゃるような気がいたしますが、このところ東フィルが演奏会形式でエレクトラを上演したり新国でサロメを上演したりMETライブビューイングで薔薇の騎士が上映されたりとちょっとしたブームを感じております。

それぞれご覧になった方の感想は概ね好評のようです。

人それぞれ好みは違いますが例えば薔薇の騎士の天国的に美しい女声の三重唱を聴いて二度と聴きたくないと思う方は稀でしょう。

さてこのナクソス島のアリアドネはオペラとしてユニークな構造になっています。
序幕と劇中劇仕立てのオペラという構成です。

初演の不評から新たに序幕を作り一つのオペラにし直しましたのでこうなりました。

オペラ部分だけでも美しくていい作品に仕上がっておりますからこれだけでも後世にオペラ劇場のレパートリーとして残っていたでしょう。
ただホーフマンスタールとR・シュトラウスの矜持が許さなかったのか芝居仕立ての序幕を急いで創作しました。
これはこれでオペラ上演前の楽屋落ちのドタバタですが上手くできています。

楽屋落ちの話はオペラになっている作品が数点ございますが正直申しましてあまり面白い作品はございません。その中ではこの序幕はいい仕上がりです。

そのわけはホーフマンスタールが創作した魅力的なキャラクターがその一つの理由として挙げることが出来ます。
どのキャラクターも腹に一物有り何を考えているかよく分からない。
これは演技する立場としてはやりがいのある、考えれば考えるほど面白いものとなっています。

他のキャラクターとの関連性を考えますと飽きません。

まず序幕で台詞、出番の少ない三人について考えてみましょう。
士官、従僕、かつら師です。

まず士官です。
士官というだけで名前、階級、兵科等は指定がありません。これは演じる側が勝手に設定していいということです。

名前にはフォンが付く貴族かそれとも中産階級出身か、将官ではないでしょうから尉官か佐官か、従兵は連れているかどうか、考えることはたくさんあります。

ツェルビネッタを楽屋に訪ねてきます。楽屋と申しましても劇場ではなく富豪のお屋敷です。
どうやって入ることが出来たのでしょう?
多分一緒に登場する従僕に金でも掴ませたのでしょう。

ツェルビネッタとはかなり親密ですね。
これが終わったらいつものバーで待っているくらいの会話のひとつもするのでしょう。
どこで知り合いどの程度の仲なのかはこの士官役の考えることです。

十九世紀のウィーンでは軍人の地位はどの程度だったのかは想像するしかございませんが多分威張って偉そうだったのでしょう。

現代の日本では日常で軍人を観る機会はほとんどありませんのでイメージを作るのは難しいかもしれません。

次に従僕です。
執事の下にいる使い走りです。ただ彼は音楽家、役者を自分より下の人間と思い見下しております。

士官には追従を言っても作曲家は小ばかにしています。
そのいやらしさは演技力が必要でしょうがやりがいのある役です。
作曲家が「ヴァイオリンを呼んできてください」と言えば「ヴァイオリンは歩いては参りません」と返すところなど引っ叩きたくなります。

慇懃無礼さを学ぶのは難しいですが演出からは高級ホテルのラウンジのフロア係を観察するようにその役の歌手には指示が出ています。

かつら師です。
日本風にいえば床山さんですね。歌舞伎や角界で仕事をしています。

序幕でバッカス役のテノール歌手にいきなり切れられてかつらをたたきつけられます。
かつら師は「自分は何も恥になる仕事はしていない」と言うのですがテノール歌手の怒りは収まりません。

切れている人に何を言っても駄目ですよね。

かつら師はここしか出番はございませんがこのテノール歌手とは長い付き合いなのかそれとも初めて仕事をするのかで歌う方が違ってくるでしょう。

やれやれいつもの悪い癖だよ、旦那もしょうがないねと思うのか、自分の仕事を侮辱され怒りに震えるのか、ここは解釈、演技のしどころでしょう。

さてちょい役でもこれだけ一瞬のうちに考えることが出来ます。
無駄な役はひとつとしてありません。

今回は若い歌手がこれらの役を務めます。
彼らには舞台に現れていない時に自分の役が何をやっているか考えて欲しいと常々言っております。

それを丁寧に考えていれば演技に活きます。

士官はどうやってここまで来たのか?
従僕は何歳でこの屋敷に何年働いているか?
かつら師は親方か見習いか?

次回のそのニは序幕の重要人物、執事、音楽教師、バレエ教師、作曲家について書くことにしましょう。

公演チケットのお申込みはこちら - ナクソス島のアリアドネ

 

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