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セリムとコンスタンツェ

スペイン貴族の令嬢であるコンスタンツェは航海中に船が海賊に拿捕され捕らわれて奴隷として売られてしまいます。
これだけ見るととても悲しい出来事で彼女の暗い運命が想像できます。

奴隷と申しますとアメリカの黒人奴隷を連想してしまうからなのですがオスマントルコではその生活はそう悲惨ではなくてそれなりの地位も与えられて人として扱われたようなのです。

また奴隷がハーレムに入り皇帝の子を産み後に絶大な権力を握った女性は多数存在したのです。

コンスタンツェもハーレムに入れられセリムの寵愛を受け男子でも産めば玉の輿に乗れるチャンスでありました。割り切ればそちらのほうが幸せになれたかもしれません。
ご存じの通りコンスタンツェはセリムの求愛を拒絶します。

理由は想像するしかないのですが深窓の令嬢ですからトルコの生活風俗、食物が口に合わなかったのかもしれませんしセリムの性格が嫌いだったのかもしれません。特に権力をちらつかせてお前をどうにでもできると仄めかすのは耐えられなかったのでしょう。
許嫁が居るからというのはあまり説得力がないような気がいたします。女性は意外と現実的で環境に慣れるのが早いと思うからです。

またこれは男女間の機微ですが優しくされて振り向くのを待たれるより半ば強引に迫られたほうがいい場合もあるのです。
コンスタンツェはドン ジョバンニの国スペインの女です。案外本音はセリムの振る舞いがじれったかったのかもしれません。
理由はどうであれ嫌だったのでしょう。

その操の固さやぶれない心がセリムの惚れた美点だったのでしょうがまあ融通の利かない女であることは事実です。

私はこう考えます。
セリムは奴隷であるスペイン娘が自分の意志に従わず逆らうことが以外でコンスタンツェは力ずくで命令に従わせようとしない太守が予想外でした。

両人とも違う理由で戸惑いがあったのでしょう。

セリムはコンスタンツェの自立した意志に強い魅力を感じコンスタンツェはセリムの寛容さに感嘆し尊敬に似た感情を持ち始めました。
ただし尊敬が恋愛感情に発展することは稀です。
これは人生経験が豊富な方ならよくご存じのはずです。

この「後宮からの誘拐」というオペラの主たるドラマはセリムとコンスタンツェのドラマです。そして両人とも孤独です。コンスタンツェは捕らわれの身の孤独、セリムは権力者の孤独です。それはあえてセリムに歌を与えず台詞だけなことで強調されます。

台詞のみの役は俳優が演じますが感情の起伏を声の調子、高低、テンポ、間などで自在に操ることが可能です。
要するに演じ方は自由であります。

歌手は音楽である程度規定されますが音楽が感情を出すのを助けてくれます。
その意味でセリム役の俳優は大変で孤独です。

皆様もご存じのように常に上に立つ人たち、王様、皇帝、社長は自由でありますが常に孤独です。
それを表現したいがためにセリムには歌がないのかもしれません。

2幕でコンスタンツェにアリアで激しい感情をぶつけられる場面のまるで叱責されているようなセリムの孤独に注目してください。
またスペインに4人が帰ることを知ったオスミンがセリムに怒りに任せて感情をぶつけますが彼のみがまともに本音でセリムに意見をします。
部下たちやハーレムの女たちはただただセリムの徳を称えるばかりです。

本当の心を隠さなければいけない立場、オスミンのように自分に素直になれたらどれだけ幸せだろう。セリムはそう考えたに違いありません。

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