ムーティが来日してヴェルディの「シモン ボッカネグラ」を演奏会形式で上演いたしましたがオールドファンにはこのオペラで名バリトン、ピエロ・カップチルリの名がすぐ思い浮かぶのではないでしょうか?
日本ではその全盛期に2度この役を演じました。1976年のNHKイタリアオペラと1981年のスカラ座の引っ越し公演でした。
スカラの来日公演は、私は東京文化会館で観劇しました。アバドの指揮、ストレーレル演出の美しい舞台でした。
その後も藤原に客演した際に「ドン・カルロ」のロドリーゴや「道化師」のカニオを観た記憶があります。その後酷い交通事故に遭い来日できず「運命の力」のドン・カルロはブルゾンが代役で出演しました。
古い話ですが懐かしい思い出です。
思えば往年の名歌手の中では彼を一番多く生で観たことになります。
トリエステに旅行した際に彼の墓にお参りしたのもそのことが無意識にそうさせたのかもしれません。
いい歌手でした。
さて何故この偉大なヴェルディバリトンの思い出話をしたかと申しますとカップチルリが「ドン・ジョヴァンニ」のマゼットを歌っている録音があるからです。
それはEMIの1968年録音のジュリーニ盤です。
ヴェヒター、タッディ、サザーランド、シュヴァルツコップ、アルヴァ、フリック、シュッティが共演しています。
カップチルリは弱冠29歳でした。大立者プロデュ―サー、ワルター レッグに見出されての起用でした。
同時期の1959年にカラスと共演して「ルチア」のエンリーコ、ジュリーニ盤の「フィガロの結婚」でアントニオにも起用されております。
彼がモーツァルトを歌った録音はこの二つしかございませんがこのマゼットはユニークです。皆様はこのマゼットというキャラクターにどのようなイメージをお持ちでしょうか?
許嫁のツェルリーナにぞっこん惚れていてお人好しで優しい男というところではないでしょうか。2幕ではドン・ジョヴァンニにぼっこぼこにされますしどちらかと申しますとどんくさいイメージではないでしょうか。
カップチルリのマゼットはこの印象を見事に覆してみせます。
ヴェルディバリトンとして演じたレナートやルーナのイメージそのままに強面のマゼットを造形しています。
貴族で階級上かなり上の部類に属するドン・ジョヴァンニにたいして一歩も引きません。このマゼットを聴いてからもしかしたらマゼットはかっこの良いイケメンだったのではないかと思うようになりました。
よくフィガロが庶民の代表と言われますがマゼットそのような位置付けなのでしょう。
「フィガロの結婚」は初夜権をめぐる話ですが「ドン・ジョヴァンニ」もそのような側面があります。
ツェルリーナがドン・ジョヴァンニになびきそうになるのは彼が領主だったからでしょう。
それに反抗して怒れる男、マゼット。正にカップチルリのマゼットであります。
このジュリーニ盤のツェルリーナはシュッティですが武骨で頑固者のマゼットを柔らかくいなしてしまうそのレチタティーヴォの受けは絶妙です。
我々の世代ですとフレーニがこの役を持ち役にしていてよく聴きましたがシュッティに比べると何とも大味に聴こえます。
前稿の「思い込み」でも触れましたが従来のキャラクターに持つイメージというのはあまり気にしなくてもいいように感じています。
強面でイケメン、骨のあるマゼットでもよろしいのではないでしょうか。
オペラバフのマゼットはどうなるのでしょうか?
どうぞご期待、御贔屓のほどよろしくお願いいたします。
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