コラム

ドン・ジョヴァンニとレポレッロ  -主従それとも悪友?―

1951年のザルツブルク映像記録、ドン・ジョヴァンニをご覧になったことはおありでしょうか?
オールドファンは旧ヤマハホールでこの映画を観てこのオペラを初めてご覧になった方が多くいらっしゃるのではないでしょうか。
オペラを振るフルトヴェングラーをカラーで観ることが出来る貴重な英像です。キャストはタイトルロールがシエピ、ドンナ・アンナがグリュンマー、ドン・オッタ―ヴィオがデルモータ、騎士長がエルンスター、ドンナ・エルヴィーラがデラ・カーザ、レポレッロがエーデルマン、マゼットがベリー、ツェルリーナがベルガーという布陣でした。
ドン・ジョバンニを演じる若い頃のシエピは颯爽としていてこれなら女がおかしくなってもしょうがないと納得できます。それほど恰好が良いのです。

舞台奥に退場する時の後ろ姿、そのふくらはぎの美しさは鮮明に覚えています。
彼はフェンシングの選手でしたので足が美しく白タイツが似合うのは道理です。
そのシエピのドン・ジョヴァンニに対してレポレッロはエーデルマンでした。
こちらは大男のコメディアンのようで絵に描いたような三枚目でした。
イケメンとデブの三枚目というのが従来のドン・ジョヴァンニにとレポレッロのお約束のイメージ、図式であります。
ピンツァとバッカローニやキプニス、シエピとコレナ、ギャウロフとベリーやブルスカンティーニ、ライモンディとタッディなどのコンビがすぐ思い浮かびます。
この二枚目と三枚目の組み合わせという図式がこの頃疑問に思うようになりました。
ドン・ジョヴァンニはあくまでも颯爽としていてかっこよくてなくてはいけません。ではレポレッロは?

レポレっロをデブで三枚目にしてしまえば演出的には楽なのかもしれませんが2幕で衣裳を取り替えてドンナ・エルヴィーラを欺く場面で夜とはいえ体型が違い過ぎれば分かるわけでその前に衣裳を着ることが不可能でしょう。
これまでこの矛盾はあまり注目されなかったような気がします。
このことからドン・ジョヴァンニとレポレッロは体型が似通っていると考えるのが妥当でしょう。影武者は無理としても暗いところでは見分けがつかないと考えるのが自然でしょう。

現に最近ではレポレッロを肥満体の三枚目にする演出は目にしなくなりました。
まるでドン・ジョヴァンニと兄弟のような歌手を起用するケースが多くなったような気がいたします。
ではこの合わせ鏡のような二人の関係はどうだったのでしょうか?
主人と従者という関係は基本ですがどうやらレポレッロは譜代の家臣ではなくて渡りの中間のような存在です。
かなり親し気で従者というよりは悪友のようです。「旦那、もこれきりですよ!」などと言いながら結局ついていきます。
レポレっロが意見がましいことを言うとドン・ジョヴァンニが切れるという場面がございますがドン・ジョヴァンニは怒ってもけしてレポレっロを解雇しません。多分このようなやり取りは頻繁にあったのでしょう。
レポレッロのほうが世間智に長けていて遥かにしたたかです。ドン・ジョヴァンニは二枚目でも世間知らずの貴族のお坊ちゃんです。
ドン・ジョヴァンニもこのやり取りを面白がっている節があります。
いわば大学のサークルの仲間のような関係を感じます。
稀代の色男ドン・ジョヴァンニが希求したものはなんだったのでしょうか?
それはレポレッロのような境遇の男が持つ自由さだったのではないでしょうか。
故にこの二つのキャラクターはその対比を見せるのではなくてその表裏一体を見せるべきなのでしょう。

 

 

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