コラム

『コシ・ファン・トゥッテ』…作者はみんなこうしたもの No.2

どんな方でも、自分に子供を授かると最初にやらねばならない大事業は…名付けです!自分の子にどんな名前を与えるか?…私のイタリアの友人たちも同じで、赤ちゃんの名前を選ぶのに大騒ぎしておりました。
作家にとって作品は、彼らの息子・娘でありますから、登場人物たちにどんな名前を与えるか?は大問題です。ということで、「コシ・ファン・トゥッテ」の名前を見てみましょう。今回は女性編です。

Fiordiligi(フィオルデリージ)

この名前は ”Fior”+”di”+”ligi” と分けることができます。”Fior” は “fiore” で「花」です。”di”は前置詞で「~の」、”ligi” は “ligio” の複数形で「忠実な」とか、歴史的には「主君に忠誠を誓った」というような意味を持つ形容詞です。「忠節な花のような女性」ということでしょうか。


※フィオルデリージ (和田奈美)

Dorabella(ドラベッラ)

こちらは “Dora”+”bella” と分けられます。”Dora” は “dorare” という動詞の変化形で「金メッキする、金箔をかぶせる」とか「金色に染めあげる、金色の光で包む」とかの意味があります。”bella” は「美女、美人」や「恋人、佳人」と言いう意味があります。「金色に輝く美女」ですが、嫌味でいえば「金メッキ美人」です(笑)。


※ドラベッラ(安藤千尋)

Despina(デスピーナ)

これは “De”+”spina” となります。”de” はラテン語語源の「分離」「低下」「否定」「除去」を表す接頭辞。”spina” は「棘」の意味を持つ名詞です。これだと「棘のない女性」ですが、この“spina” には「心配事、悩み事」の意味もありますので、それに “de” が付いて「心配事がない」「悩み事がない」になりますから、呼び名としては「楽天家、お気楽女」ってな感じでしょうか?


※デスピーナ(川合真桜子)

これらの意味を考えると、姉妹では姉のフィオルティリージは精神面を示し、妹のドラベッラは容姿を意識させる名前ですね。デスピーナは性格を表しています。

フィオルティリージのアリアは “Come scoglio immota resta”「岩のように動かず」と貞節と愛について歌います。また変装したフェッランドの愛を受け入れた彼女を、グリエルモは “La mia fior . . . Fior di diavolo”「僕の花 . . .悪魔の花め」となじります。明らかに ”Fior”+”di”+”ligi” が「忠節な花」を意味していて、それをもじっているのがわかります。

ドラベッラは、フィオルティリージより早く、恋人たちが変装したアルバニア人の貴族たちに興味を示します。1幕フィナーレにて毒をあおったアルバニア人を見て、フィオルティリージは

In momenti sì dolenti,  こんな気の毒な時に
Chi potriali abbandonar.  誰が彼らを見捨てることができましょう

と言うのに対し、ドラベッラは

( si accosta un poco)  (ちょっと近づいて)
Che figure interessanti !  なんて魅力的なお姿!

と言います。一応、毒を飲んだ青年…死にかけている(嘘だけど)…なので、容姿がどうこうと言う状況ではないはずなんですけど(笑)。自分自身が「金色に輝く美女」ですから、やはりお相手の容姿は、気になりますよね!

デスピーナは登場から、その名の如く、憂のない女性です。ご主人様たち(フィオルティリージとドラベッラ)の恋人たちが戦地に赴いたと聞いても、

Tanto meglio per loro:  彼らにはとても良いことですよ
Li vedrete tornar carchi d’alloro.  月桂樹の葉を被ってお帰りになるのをご覧になるわ

と答えます。フィオルティリージが「でも、死んでしまうかも」と心配すると「それなら、あなた方にはもっと良いです」と応じます。フィオルティリージが「ばか!なんてことを言うの?」と怒ると

La pura verità: due ne perdete  理論的な真理としては、お二方※を失っても
(※フェッランドとグリエルモのこと)
Vi restan tutti altri. 他の男みんな、残っているってことです

とまぁ、なんとも楽天的というか、現世主義というか、です(笑)。要するに、彼女たちの名前は、明らかにそれぞれのキャラクターと結びついているように見えます。日本語でも「名は体を表す」と言いますから、古今東西、作家は似たようなことを考えるものなのでしょう。

次回は、男性陣を見てみましょう。


岡野 守 プロフィール

バス・バリトン。イタリア・モデナ在住。
早瀬一洋、Arrigo Pola、Carmela Stara、Luciano Berengo、Giuliana Panza に師事。

ペルゴレージ作曲『奥様女中』(Uberto)、モーツァルト作曲『ドン・ジョヴァンニ』(Leporello)、『コシ・ファン・トゥッテ』(Don Alfonso)、ロッシーニ作曲『セヴィリアの理髪師』(Don Bartolo)、ドニゼッティ作曲『愛の妙薬』(Dulcamara)、ヴェルディ作曲『運命の力』(Fra Melitone)、ビゼー作曲『カルメン』(Dancairo)、プッチーニ作曲『トスカ』(Il Sagrestano)、『ジャンニ・スキッキ』(Gianni Schicchi)、『トゥーランドット』(Ping)等を歌っている。藤原歌劇団団員。

オペラを中心に声楽家として活動していたが、師匠たちから「お前は、私の知らないことばかり知っている!」「Musicologo(音楽学研究家)もやれ!」と言われ、良い気になって、雑学的音楽コラムを書き始める。

 

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