コラム

45年目の再読 その4

(後宮からの誘拐の公演がございましたのでだいぶ間隔があいてしまいましたがドナルドキーン氏のエッセイ「音楽の出会いとよろこび」の再読録の4です。)

キーン氏の1979年の見聞録は前期と後期に分けて書いています。
読み進めていくうちに分かったことですがどちらかと申しますと彼がほめている公演はああ見たかったなと思う反面あまり内容が面白くないのに気がつきました。

酷い公演でほとんど怒りに任せて書いているほうが本音が垣間見えて面白いのです。
良い意味で忘れがたい公演と悪い意味で忘れがたい公演二通りございます。

まずよかった公演から挙げますとDVDにもなっているスコット、ドミンゴ、ミルンズ出演のルイーザ ミラー、スコット、ホーン、ギャウロフ、ミルンズ、ジャコミーニ出演のドンカルロ、トロヤノス、ノーマン。コロ出演のナクソス島のアリアドネ、そしてヴィっカース、ルードヴィヒ、タルヴェラ、ヴァイクル出演のパルシファルがあります。

これらがすべて当時のシェフ、レヴァインの指揮です。
レヴァインの薫陶よろしくその成果が現れてきた時期だったことが見て取れます。

ただひとつレヴァインの棒で気に入らなかった公演がさまよえるオランダ人ですが、これはポネルの演出がいただけなかったようです。
歌手ではナクソス島のアリアドネのバッカスのコロについて歌の巧みさは讃えるものの神々しい響きに欠けるとしていてなかなか厳しい評価です。

残念だった公演はまずはボニングが振ったウェルテルを挙げています。
シャルロッテはクレスパン、タイトルロールはクラウスでした。クラウスは喉が温まるにつれて尻上がりに良くなったもののクラスパンはミスキャストと言っています。
この公演の海賊盤を聴きましたがそれを聴いて私もそう思いました。

クレスパンは偉大なフランスのドラマティックソプラノですがあまり器用な人ではないような気がいたします。それとボニングの棒はドラマを作れません。

ヴァーレットが意欲的に取り組んだノルマは期待外れだったようです。アダルジーザのオブラスツァは声が重く、指揮のマークはまるで無能でインテンポで流すだけとしています。

指揮者のペーター マークは来日時に都卿の演奏会で聴きましたがかなり出来にムラのある人のようです。ベルカントオペラは苦手だったのかもしれません。
評論家の故宇野功芳氏はかなり評価していましたが都響で聴いた時もさほどいいとは思いませんでした。

歌手の中で当時売り出し中の黒人ソプラノ、ミッチェルを評価しています。
レオナ ミッチェルですがご存じの方はどれくらいいらっしゃるでしょうか?

METの他にもオペラオーケストラニューヨークのコンサート形式のヴェルディのアロルドを観ています。
作品自体は大本当の欠陥はあるもののカバリエの歌はよかったようです。この中で駆け出しのスペインのバリトン、ポンスも出演していて彼の輝かしい未来を予言しています。

いずれにいたしましても70年代後半のオペラ界は一つのピークであったことは間違いのないことでしょう。

光陰矢の如し。
もう今となりましては遠い昔の話となりました。
私も馬齢を重ねオールドファンとなりキーン氏始めこの駄文に名前が出てくる歌手達もほとんどの人が彼岸に渡りました。
今の音大声楽科の新入生はカラスはおろかフレーニの名も知らない生徒が多いそうです。

すべては忘却の彼方に押しやられる時の流れは残酷であります。

終わり

 

 

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