コラム

上演記録を眺める楽しみ METの後宮からの誘拐

世界中のオペラハウスでは今日もオペラが上演されておりますが私は過去の上演記録を眺めてあれこれ想像すると時間が経つのを忘れてしまいます。

オペラバフは先日「後宮からの誘拐」公演をめでたく打ち上げましたがオペラハウスの過去の上演記録を繙きますとこの名作は意外と上演が少ないのが分かります。

不滅のダ・ポンテ三部作や「魔笛」はシーズンになれば必ず上演されますが「後宮」はレパートリーには入っているもののそう多くはありません。

これはドイツ語の台詞の問題やオスミンを歌えるバス歌手の問題それと演出上ドラマを構築する難しさがそうさせているのかと推察しています。

因みにニューヨークのMETの上演記録を見ますと特に少なかったことが分かります。
私の所持している年鑑が1984年までなので最近のモノは存じませんがそれに拠りますと4シーズン、39公演しかございません。

1946―1947,1979―1980,1981-1982,1983-1984この4シーズンです。

戦後の1946年からのシーズンは英語で上演されました。
11月27日のプレミエのキャストはコンスタンツェがスティーバー、ベルモンテがクルマン、オスミンがエルンスターでした。指揮はクーパーです。
(シーズンを通して同じ演出、セットで上演されますがキャストは変化します。)
旧い人たちでオールドファンにも分かる方はなかなかいらっしゃらないでしょうがエリーナ スティーバーはアメリカンプリマドンアで1961年までMETに出演しておりました。
R・シュトラウスやモーツァルトを得意としておりました。

チャールズ クルマンはアメリカ人で戦前クレンペラーがシェフだったベルリンのクロール劇場で活躍していました。ワルターのマーラー「大地の歌」の録音でソリストを務めたことでご記憶の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

デジュー エルンスターはハンガリーのバス歌手です。ザルツブルクのフルトヴェングラーの指揮した「ドン ジョバンニ」で騎士長を歌っていました。1946年から1863年までMETに出演していますからこれがMETのデビューだったのかもしれません。

次の上演は1979年です。今のリンカーンセンター移転後ですからオールドMETではプロダクションはたった一つだったことになります。30年以上も上演がありませんでした。

1979年19月12日のプレミエはシェフのレヴァインが振りました。彼がこの名作をMETに復活させました。

キャストはコンスタンツェがモーザー、ベルモンテがゲッダ、ブロンテがバロウズ、オスミンがモルです。
ここらへんになりますとオールドオペラファンには馴染みの歌手の名前が出てまいります。
ブロンテのノーマ バロウズはイギリスの実力派のソプラノです。ショルテイの振った「ヘンゼルとグレーテル」の映像に砂の精で出演しています。ブロンテはC・デイヴィス盤で聴くことが出来ます。

次は僅か3年後の1982年です。指揮はこれもレヴァインです。
プレミエは3月22日、キャストはコンスタンツェがモーザー、ベルモンテはバロウズ、ブロンテがバトル、ペドリロがクリーチ、オスミンがタルヴェラです。

バトルやイギリスのリリックテノール、バロウズを配したキャスティングはレヴァインとしては会心の公演だったのではないでしょうか。
シェフに就任してそろそろ成果が表れてくる頃だったのだと思います。

1984年3月12日のプレミエはルーデルが振りました。
コンスタンツェがマルフィターノ、ベルモンテがアライザ、ペドリロがクリーチ、ブロンテがブレゲン、オスミンがコーンです。

ペドリロがまたクリーチが起用されています。これは狂言回しのペドリロが結構大変だからで慣れている人を起用したのでしょう。
この傾向はザルツブルクでも顕著です。

ジュデイス ブレゲンはアメリカのスーブレットソプラノです。
パヴァロッティと「愛の妙薬」で共演していました。

私は2016年5月でしたが晩年のレヴァインが振った後宮をMETで観ました。

歌手たちが個性的な人が居なかったからでしょうか残念ながらあまり記憶にありません。
記録を見ますとオスミンはハンス ペーター ケーニッヒでした。
広いMETの舞台をセットで仕切り狭く使っていたことは覚えています。

この上演記録の中ではバロウズのベルモンテとモーザーのコンスタンツェがどうだったのかとても興味があります。

 

 

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