今回は鑑賞派の中でも書斎派の方達へのご提言です。
この方達は言うまでもなく学究肌で書籍もよくお読みでご自分の好みの分野では学術論文が書けるほどの知識をお持ちです。よく手前共のお店にもいらっしゃいます。
もちろんお客様の中には本物の学者さんもいらっしゃいますが驚くべきことは大学の先生とかではなくて一般の他の職業の方にも多くいらっしゃることです。
日本という国は市井の学者がどの分野にも見出せるすごい国だと思います。
オペラの分野でも例外ではありません。
学者先生顔負けの読書量、CD等の膨大なコレクション、豊富な知識をお持ちです。
オペラだけではなくオケや室内楽、リート等にも興味をお持ちでそちらのほうはよくコンサートにお出かけになるようです。
このような方達といろんなお話をする中で私の知らないことをお教えいただき勉強させていただいております。
とても刺激になります。
またこの方達は興味のある書籍、音源はすぐお買い求めになりますので手前共としましてもいいお得意さまでございます。
特にヴァーグナー等のドイツオペラ、ロシアオペラ、フランスオペラなどに興味がお有りの方が多いような気がいたします。
それと意外なことにオペレッタの研究、愛好者が多いです。
オペレッタの資料、書籍はほとんど日本にございませんので英書に頼らざるを得ず愛好者もそれなりのレヴェルではないと難しいのかもしれません。
イタリア系はそう多くはありませんがロッシーニなどのベルカントオペラを研究なさっている方はたまにいらっしゃいます。
人気のモーツァルト、ヴェルディ、プッチーニは研究書が日本でも沢山出ていてあまり食指が動かないのかあまりいらっしゃいません。
このような方達とお話をさせていただくとオペラ全般に満遍なく興味をお持ちの方はあまりいらっしゃいません。もっとも全能の神ではありませんからそれでよろしいのですが、ちょっとこれはもったいないと思うこともあります。
お客様でこのような方がいらっしゃいました。
その方はヴァーグナーについての書籍をお探しでした。ヴァーグナーのことはよくご存じで手前共の在庫の書籍はほとんどお読みでした。ただ椿姫は聴いたことがないとおっしゃいました。
ある方は店でウエストサイドストーリーのトゥナイトをかけておりましたら「これは何?」とおっしゃいました。ブリテンなら何でもご存じの方です。
プロコフィエフの研究をされている方はフランスの作曲家の伝記が欲しいとおっしゃいますのでグノー、マスネの伝記をお出ししたら「それは取るに足らない」とおっしゃり手にも取りませんでした。ファウストやマノンは多分お聴きにならないのでしょう。
なにか私の感覚からはちょっと理解できないことでした。
椿姫もウエストサイドストーリーもファウストもミーハーで彼らには取るに足りない作品なのかもしれませんがレパートリーに残っているのですから一般聴衆に支持された聴くべき価値のあるいい作品なのだと思います。
ここでご提案です。
ご自分のお好きな分野のご立派な知識、見識は一時置いといてたまにはミーハーになりましょう。19世紀にはオペラはエンターテインメントでした。音楽を純粋に楽しむ聴衆よりもバレエの踊り子や歌手達に興味のある聴衆が大半でした。
オペラを聴き始めた頃の純粋な驚き、歓びを呼び覚ましましょう。最初に聴いていいと思った曲はなんだったでしょうか?その歌を歌っていた歌手は誰だったでしょうか?
ベルクのヴォツェックではなかったはずです。
こんなことがありました。
若い方でしたがプフィッツナーの「ドイツ精神について」のCDがないかとのお尋ねでした。在庫を探しておりましたらワルターが振ってレーマンが歌ったンナワルツのCDをお取りになり「これをください。ワルターのウィンナワルツの解釈を知りたいので」と照れ臭そうにおっしゃいました。結局プフィッツナーはどうでもよくなっちゃったみたいです。
ワルターの解釈よりも単純に皇帝円舞曲や美しき青きドナウが聴きたくなっちゃったんでしょうね。
それでいいのだと思います。
結び
さていろいろ勝手なことを書きました。
これに当てはまらない方も大勢いらっしゃるでしょうし皆さんご自分のスタイルで上手にお楽しみだと思います。
これは否定するものではありません。大いにやるべきです。
ただ言いたいことは近視眼的になるのは損ということです。バランス良く楽しむことが重要です。
実践派の方はたまにじっと動かないで本でも読みましょう。逆に書斎派の方は外に出て映画でも観ましょう。METのライブビューイングはお薦めです。
オペラは総合芸術の広大かつ深遠な世界です。
どなたも一生かけても極めることは不可能でしょう。私も含めて知っているのはその断片、ほんの一部にしか過ぎません。
もっと知りたいと思えば自ずと今とは異なるアプローチが必要となるでしょう。
そのお手伝いを手前共オペラバフがお手伝いできればこれに過ぎる歓びはありません。
どうぞ皆様焦らずゆっくりやりましょう。
オペラの神様は逃げません。
終わり
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