コラム

オペラファンの生態学 その三 鑑賞派の方達へ

今回は鑑賞派の方達にご提案したく思います。オペラやコンサートによくお出かけの方達です。

鑑賞派の情報収集力は凄いです。インターネットがございますからできることでしょうがどこで何をやっていて誰が出演するのか、チケット発売はいつからか細かく把握しております。
パソコンの前にかじりつきプラチナチケットを根性で入手します。
海外派は同時に航空券も買ってしまいます。

とにかくお金がかかります。皆様プラチナクレジットカードをお持ちに違いありません。

国内派の方に多いのですが評論家のように感想をブログ等にあげる方がいらっしゃいます。
それを拝見させていただきますと皆さんよくご覧になっていて目や耳が肥えていらっしゃる方が沢山いらっしゃるのが分かります。

ご自分の物差しでお書きですから明らかに素人と分かる意見も多い反面鋭い意見も散見します。プロの歌手には恐ろしい人たちです。
素人が一番怖いのです。
(海外派の方は現地在住でもない限りブログ等をあげる方は稀です。)

このような評論家まがいの方の他にミーハー気分で贔屓の歌手の出待ちをされたり、サイン会でのツーショットの写真をSNSにあげたりする方がいらっしゃいます。

オペラとは本来ミーハー的要素もございますのでこれも楽しみの一つで否定はいたしません。

さて今月は7本観たとか伺いますと羨ましい反面この方は他におやりになることがないのかしらと余計なことを考えてしまいます。
私もそうでしたが人生のある時期に毎日のようにオペラやコンサートに通う時期がございます。
それは経済力や趣味の変化熟成で足を運ぶコンサート、オペラの数は減ってきます。

若い頃はいろんなものを聴かないと流行に乗り遅れ仲間との会話についていけないとかガールフレンドに一目置かせたいとか見栄だけで通うことも正直ありますしありました。

だんだんそれがばかばかしくなってきます。
冷静になり自分がどのような趣味嗜好があるのかを悟り慎重にチケットを買う演目を選ぶようになります。

若い頃ならいざ知らず小田実よろしく「何でも見てやろう」では少々疲れます。

月に何回もオペラやコンサートに通いその感想をブログにあげるのは大変な労力です。
多分リタイヤされた方なのでしょうがまるでライフワークのようにせっせと書かれています。私も行くことが出来なかった気になる公演の様子を知らせていただけますので結構重宝しているのですが、よく続くものです。

この方達にご提案したいことは他の分野にも目を向けることです。

クラシック音楽であればオーケストラをはじめリート、室内楽、ピアノなどいかがでしょうか。
他にも歌舞伎とかミュージカル、バレエもよろしいのではないでしょうか。
元来、音楽や舞台がお好きでしょうから結構楽しいと思いますし新たな発見が合うかもしれません。または映画でもいいと思います。

ニューヨークタイムズの音楽評論担当だったがショーンバーグがMETでのテバルディ、コレルリの大顔合わせのアドリアーナルクブルールで巷が大騒ぎしている時にばかばかしくなり同じ日のシューベルト協会の室内楽のコンサート聴きに行った話があります。
チレアとシューベルトでは音楽の質が違い過ぎて勝負にならないとも書いていました。

音楽、舞台はけしてオペラだけではありません。もっと楽しむべきです。
首都圏に居れば不自由はなさらないでしょう。

海外でオペラをご覧になる海外派の方たちの行動力と資金力は凄いものがあります。
これからウィーン、来月はロンドン、その次はミラノと商社マン顔負けです。花形人気歌手例えばカウフマンやガランチャの追っかけをなさっている方は必然的にそうなりますね。
今はインターネットでどこの情報も入りますし外国の劇場のチケットもオンラインで購入できますからお金と時間とやる気があればどなたでも可能です。

いうまでもなく本場の歌劇場で観るオペラは格別です。
それと歌手たちの本気度が日本での来日公演とは明らかに違います。

私もたまに海外でオペラを観ますが熱心な日本のファンの方が大勢見物なさっています。

ただ不思議な現象がございます。
ウィーンでもベルリンでも夏のペーザロでも日中街角で日本の方に会うことは稀です。
カフェ、地下鉄、市電には皆無です。

美術館には辛うじて2人くらいお会いすることがございます。
例外として日本料理屋には沢山いらっしゃいます。お米食べたいですからね。
そしてオペラ劇場にはまるで湧いて出てくるようにこんなにいたのかと呆れるくらいいらっしゃいます。

皆さん昼間はどちらにいらっしゃるんでしょう?
私の知らないところがあるのでしょうか?

ここで海外派の方にご提案です。
せっかく13時間もかけて現地に来たのですから街を歩いてみるのはいかがでしょうか。
スリやかっぱらいはどこにでもいますが先進国であればそう酷いことにはなりません。

オペラはヨーロッパで誕生したものです。彼らの日常に触れればより理解が深まると思うのですがいかがでしょうか?
イタリアの市場とか歩いているとこれはオペラかと思うような場面に出くわすことがあります。
チャオ!アントーニオと挨拶をかわす兄さん。これがよく通るいい声なのです。
ベルカントのルーツを垣間見る瞬間であります。
ウィーンも市電で中央墓地まで行くと観光地でない普通の街ウィーンの顔が見えます。
疲れたらカフェに座ってボーとしているのも最高の贅沢です。
そのカフェのある広場も教会があり場所によっては噴水がありオペラの舞台になることがありますね。

このように街角には宝石が落ちています。
現地で普通の人たちを観察したりお話したりすることはオペラを鑑賞する上でとても有意義なことだと思います。
余裕のあるスケジュールなら大いにオペラハウスがある街自体を楽しみましょう。
何か発見があるはずです。

その四では鑑賞派の中の書斎派の方達にご提案いたします。

(その四に続く)

 

 

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