コラム

オペラファンの生態学 その二 実践派の方にご提案

オペラを人生の楽しみの一つとしてのめり込むことは素晴らしいことだと思います。
前回、例外はあるのを承知の上でオペラファンを4つのタイプに類型化しました。

どの方もご自分のやり方、スタイルでオペラをエンジョイされています。
それはよろしいのですが手前共オペラバフの大目的といたしまして良質なオペラファン、いわゆる見巧者を育成するということがございます。

拝見させていただいてこうやればもっと楽しいのにと思うこともございます。
余計なことかもしれませんが少しご提案したく思います。

まず実践派の方達。
この方達の行動力、バイタリティーは驚異的です。今日は魔笛の通し、明日は愛の妙薬の稽古、週末は椿姫のゲネプロ、本番と忙しく稽古場を飛び回っています。
特に定年後の男性は全く未知の世界で素晴らしさに感激してはまる方が多くいらっしゃいます。

合唱はどこの団体でも集めるのは大変ですから一つ参加すれば次から次へとあらゆる団体からお呼びがかかりモチベーションも上がり同好の友人もできて楽しく充実した毎日です。
とても結構なことです。

実際に舞台に立つという経験は貴重です。
しかしながらこの方達の最大の問題点は出演する公演でご自分がどう見えているかあまり意識されないことです。
憑かれたように出演回数をこなすのが使命のようになってしまいご自分がどんな質の公演に出ているのかあまり考えません。

正直申し上げて出演されている公演の中にはこれがオペラか?と言いたくなるようなお粗末な公演もあります。

ここでご提案です。
せっかくオペラの現場にいらっしゃり得難い体験をされているのですから演出、制作等を冷静に観察して時には批判の目を持ちましょう。
合唱団員は刺身のつまではありません。役名はないものの立派な登場人物です。

それにはある程度の勉強が必要です。
例えば椿姫に参加してとても楽しかったとします。次のお誘いも椿姫であれば原作を読んでみましょう。デュマ フィスの原作は文庫本で簡単に入手できます。オペラとはだいぶ印象が異なるはずです。

そこから派生して19世紀パリの風俗とかヴィオレッタの実在のモデルとかいろんなことに興味が発展していくはずです。
そうすれば自ずと舞台の見え方、動き方が違ってくるはずです。
疑問は率直に演出や制作にぶつけましょう。それに答えられない演出家や指揮者ならその場で見限るべきです。

要は参加費を払うだけのお客さんにならないことです。
お客さんは入場料を払って客席にいるものです。

次に発声マニアの方達です。その探求心は無類で尊敬すべきものです。
どうしたらハイCが出せるようになるか先生について毎日試みます。喉を鍛え呼吸法をマスターしてひたすらいい声を追求する。まるでスポーツのアスリートです。
たしかに発声はプロの声楽家の一生追求するテーマですからやりがいはあるでしょうしうまく歌えればそれはうれしいでしょう。

過去の名歌手たちについても私が驚くほどよくご存じです。(ただしテノールの方はテノールにしか興味がありません。)

ご自分で好き好んでおやりになっているのですから何も言うことはございませんがアリアはオペラの華でありますがどんな技巧的だろうがハイノートがあろうがオペラの構成要素の一つに過ぎません。

声。アリアしか興味がないというのは木を見て森を見ないことに等しい行為です。
とてももったいないことだと思います。

ここでご提案です。
本来声に興味をお持ちでしょうから他の声質に興味を広げたらいかがでしょうか。
ソプラノやバス、バリトンでいい声の名歌手は無数に存在します。もしお好きな歌手がいるのであれば同じ時期に共演した歌手を聴いてみるのも楽しいことです。

私はマリア カラスと共演した歌手達に興味を持ち彼ら、彼女らの音源を聴いて徐々に知っている歌手を増やしていきました。これは楽しい作業でした。
オペラはけして声だけではありません。他にもいろんな楽しみがあります。
ただ声が関心事であるならばそこから広げていきましょう。焦ることはありません。

テノールしか興味が無かった人がギャウロフってすごい!と感じられたのならしめたものです。

その三では鑑賞派の方達にご提案です。

(その三に続く)

 

 

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