コラム

男子は兵隊ごっこが好き

ロイヤルオペラのライブヴューイング、アイーダを観ました。
2022年の10月12日にロンドンで上演されたものです。従来のアイーダのイメージからは遠く登場人物のほとんどが現代の軍服を着ているというものでした。
演出はロバート カーセンでした。
彼の主張はアイーダの物語の背景には戦争があるのだからこういう解釈もあり得るとのことでした。

エジプト王とアムネリスのみ民間人の服装です。王は青い背広と赤いネクタイ。意図的に東洋人のシム インスンを起用していました。中国を意識していたのでしょうがシム インスンはまるで暗殺された韓国の朴大統領のようでした。

アムネリスは1幕の登場の時は軍服のようなオリーブグリーンのワンピースを着ていますが2幕、3幕では赤や青のブランド物のワンピースに着替えます。アムネリス役のレーリスが金髪でしたので王の娘というよりは愛人に見えました。

1幕のセットは中央に赤い絨毯を敷き正面奥に王の肖像画が掛かっています。
戦闘服の軍人達が下手で屯しているところから始まります。
そこに参謀長のようなランフィスが登場し神のお告げがあったと告げるのです。
軍人たちが行き交う王宮というよりも参謀本部か陸軍省のような狂信的な軍事国家の一コマです。アイーダは奴隷として使われておりますが粗末な兵隊外套を着て登場します。
まるで二等兵です。

神殿の場は教会のような横椅子が並び自動小銃を授ける儀式が行われます。
外線の場は広場に戦死者の国旗に覆われた棺が安置されています。後でこれは片づけられますがリアルで衝撃的でした。
男も女も軍服を着て凱旋兵士を迎えます。捕虜のアモナスロとその兵士も戦闘服です。

最終幕も砲弾貯蔵庫にラダメスは閉じ込められます。
とにかく軍事色一色でした。これだけ徹底すると却って爽快です。

当然合唱団には敬礼、踵合わせなど軍人らしい立ち振る舞いを要求されます。
これがなかなか堂に入っていてそれらしいのです。まあプロのオペラ合唱団ですからやってのけるのでしょうがそれだ
けではないような気がいたしました。

先日の魔笛の公演でもそうでしたが合唱の人たちに兵隊の衣裳を着せて各自役割を説明してやらせるとそれらしく動くのです。あまり稽古も必要ありませんでした。
ロンドンのおじさんたちもそうだったのではないでしょうか。

元来男子は洋の東西問わず兵隊ごっこが好きなのでしょう。
よく似た話でプッチーニの西部の娘で合唱団にカウボーイの衣裳を着せてやらせるとすぐ役に入っちゃうんだそうです。西部劇は日本ではあまりなじみはないですが西洋ではちょうど日本の時代劇のようなものなのでしょう。
まあ楽しんでしょうね。
そういえばこのオペラ日本ではほとんど上演されませんね。
今の若い方には西部劇などほとんど縁がありませんからイメージが作りにくいのかもしれません。

話が逸れました。
アイーダは周知の如く古代エジプトの物語であります。
グランドオペラですからバレエもありゼッフィレルリ演出の豪華絢爛な舞台がやヴェローナの野外オペラが私たちのスタンダードなイメージです。

もうかなり前ですがヴェローナでアイーダを観たことがありますが合唱もバレエも雑で観光用オペラという感じであまり関心はしませんでした。

今回のロイヤルオペラのアイーダはロンドンの聴衆には受けはいいようでした。
多分古代エジプトのハリウッド映画のような舞台は食傷気味でこの演出は新鮮だったのではないでしょうか。
ゼッフィレルリのアイーダは日本の新国立劇場でも観ることが出来ますが最初は圧倒されたものの、今となりましてはこれはお金かけた人海戦術だと冷静に判断しております。

その意味でこのカーセン演出は新鮮でした。
聴衆が共感できる演出を演出家は常に考えるところでしょう。ただ残念なことに大概外します。
ただこのアイーダは分かりやすいタイムリーな企画だったといえるかもしれません。

読み替え演出が成功するか否かは演出家の強い意志とその意図の周知徹底であります。
野心的演出は結構ですがほとんどものがダメなのはそれがないのです。

その意味でこのアイーダはいいプロダクションだったと言えるでしょう。

 

 

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