コラム

思い込み

オペラバフは来年2026年4月にモーツァルトのドン・ジョヴァンニを上演いたします。
どうぞ御贔屓の程よろしくお願いいたします。
お陰様でキャスティングも完了し発表を待つ段階となりました。どうぞご期待ください。

さてキャスティングを進める際に気がついたことがございました。
それは我々の「思い込み」ということでございます。
オペラ「ドン・ジョヴァンニ」の中でドンナ・エルヴイ―ラというキャラクターがあります。
ご存じのように結婚して3日で逃げたドン・ジョヴァンニをブルゴスから追いかけて来た女性であります。行動的で強さと同時に脆さを併せ持つ魅力的なキャラクターです。
このオペラの中では一番魅力的な女性だと個人的に思います。

さてこのドンナ・エルヴィーラをメゾソプラノが歌うと日本ではいつから決められたのでしょうか?
今回この役を打診した何人かの歌手に「エルヴィーラはメゾよね」と言われました。私も漠然とそう思っておりました。
しかし古い録音ではシュヴァルツコップ、デラ カーザ、L プライスなどが見事にこの役を歌っています。彼女たちはソプラノです。
他にもローレンガー、アーロヨ、カバリエなどが歌っています。

確かにメゾソプラノのユリナッチやルードヴィヒも歌っていますがその境界は曖昧です。
要するにドンナ・アンナはソプラノ、ドンナ・エルヴィーラはメゾソプラノという線引きは無意味であります。

他にツェルリーナという役もスーブレットのソプラノがやるものという慣習があります。確かにスーブレットに振られるケースは多いようです。
しかし私はニューヨークのMETでメゾソプラノのイザベル・レナードがこの役を演じるのを実際に観ました。
またカサロヴァはアリア集でツェルリーナのアリアを歌っています。

このように何もスーブレットの専売特許ではないのですね。
これの点に気がついたことで歌手の選択の幅が広がりました。
そして少し冒険をしてみることにいたしました。

ダブルキャストで二人ともソプラノ歌手を選びツェルリーナは、一人は従来のスーブレットのソプラノの方でもう一人はメゾソプラノの方にお願いしました。
思うにモーツァルトのオペラはオペラを志向する人は必ず通らなければ行けない道であります。特にダ・ポンテ三部作はプロのオペラ歌手であるならばマスターすることは必須と言えるでしょう。

この3作品の内であれば自分の声で歌える役はどの役を振られても出来なくてはいけません。
歌舞伎の世界では例えば仮名手本忠臣蔵はどの役を振られても即座にできなくてはいけない不分律があります。今日は師直を演じていても明日からは由良之介と言われたら演じなくてはいけません。
ですからドン・ジョヴァンニを歌っていた歌手がレポレッロやマゼットを振られてもプロ歌手ならできないとは言えないということです。

日本でどのくらいのオペラ歌手が、それが可能でしょうか?
考えますと暗然とせざるを得ません。
もしあなたが若くてオペラ歌手になりたいとお考えならばどうかモーツァルトを勉強してください。
今しかありません!
まずレチタティーヴォをマスターすることです。稽古はあなたを裏切ることはありません。
どの職業でもそうですが若い時代の蓄積で仕事はするものです。

 

 

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