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町人貴族とナクソス島のアリアドネ

オペラバフは2023年9月にR・シュトラウスの名作、ナクソス島のアリアドネを上演する予定です。

日本ではあまり上演機会のないオペラですのでこの機会に是非ご見物いただけますようにお願い申し上げます。

正直申しましてプッチーニやヴェルディなどと異なりR・シュトラウスのオペラは敷居が高いものです。これは否定しません。
私も若い時に敬遠していた時期もありなかなかその良さに触れることがありませんでした。
食わず嫌いであります。

しかしホーフマンスタールはじめ一流の文学者が書いた台本とその精緻なオーケストレーションに触れるとほとんど病みつきになる魅力があります。

さてナクソス島のアリアドネですが序幕とオペラ1幕という変則的な構成になっております。
何故そうなのか?

実はこのオペラには第一版と第二版があります。
第一版の初演は1912年にシュツットガルト宮廷歌劇場でした。結果は不評でありました。
モリエールの町人貴族の芝居の後にオペラという趣向は成功しなかったようです。

時間が長くかかったことやオペラ自体が不評だったなど原因はいろいろ言われておりますが企画自体無理があったのだと思います。

モリエールはフランスの古典演劇の巨匠です。
この町人貴族はダンジュールという貴族になりたい裕福な商人を揶揄する内容の芝居です。
フランスですから途中にバレエが入ります。
音楽はリュリが付けました。

これをホーフマンスタールはバレエの代わりにオペラをと考えたのです。
野心的試みと言えるでしょう。
演出はベルリンからマックス ラインハルトを招聘し、指揮はR・シュトラウス自身で万全の体制で臨みましたが結果は失敗でした。

モリエールの町人貴族は裕福な商人ダンジュールが無学と育ちにコンプレックスを持ち貴族になりたいと熱望して奮闘する滑稽さを揶揄する内容です。
最終的にはハッピーエンドで終わります。

太陽王ルイ14世はこの芝居がお気に入りで何度も上演させたと言われています。
王様も笑いたかったのでしょう。

モリエールの戯曲のテーマは普遍的で現代に通じその光を失うことはありません。
それ故ホーフマンスタールもやる気になったのでしょうがそれは越権行為でした。

モリエールの台本は言うまでもなくフランス語でリュリが音楽をつけたバレエが挿入されます。それは完成されたもので変えちゃいけないものでしょう。
変えてしまうとそれは町人貴族みたいなものに過ぎなくなります。

気晴らしに笑いたいと思う人が劇中劇でギリシャ神話のオペラを観たいとは思わないでしょう。R・シュトラウスのオペラの出来は悪くありませんがあまりにその状況を無視しています。
コメディデラルテのキャラクターを駆使して軽い内容にする努力はしているのでしょうが彼の作風からして重厚なオペラになってしまいます。

後にR・シュトラウスはこの初演時の回想で「芝居を観に来た客はオペラを聴きたいとは思わないだろうし逆もまたしかり」と言っています。

それなら独立した作品として成立させようと序幕を作りオペラ部分と合体させ第二版を完成させ1916年ウイーンで初演されこれは成功しました。若いロッテ レーマンが作曲家を演じています。
序幕はオペラ上演までの楽屋のドタバタという内容です。僅か40分足らずですがかなり内容の濃い音楽劇となっています。

このナクソス島のアリアドネはR・シュトラウスのオペラとしてはオーケストラの編成が小ぶりです。ホーフマンスタールとしてはマックス ラインハルトのベルリンドイツ劇場で上演するつもりでそのようにR・シュトラウスに指示していたようです。

ドイツ劇場はベルリンに現存しますが芝居小屋でピットがないのです。
そのおかげでオーケストラはまるで精緻で室内楽のようです。

試行錯誤の後このユニークな名作は誕生しました。

 

 

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