いつも御贔屓に与り誠にありがとうございます。
オペラバフは8月16日、17日にサンパール荒川大ホールにてトマ作曲のハムレットを上演いたします。
情報公開は5月にいたしますが気鋭の指揮者、ソリストに集まっていただきました。どうぞご期待ください。
さてハムレットですが多分このシェイクスピアの戯曲をご存じない方はいらっしゃらないでしょう。文庫本で様々な方の翻訳で数種類ございますし研究書、エッセイの類もかなりの数が出版されています。
ただオペラのハムレットはそうポピュラーというわけでもありません。トマの作品でしたらミニヨンのほうが有名です。
まずこの作品のユニークな特徴の一つはタイトルロールがテノールではなくてバリトンということであります。当初トマはセオリー通りテノールで考えていたようですが生憎オペラ座に使えるテノールがいなかったので演技の巧みなバリトンのジャン パティスト フォールに歌わせるためにそうなったようです。確かにハムレットはほとんど舞台に出ていて役者のような演技が要求されます。難役ですがバリトンとしてはやりがいがあり一度はやってみたい役の一つではないでしょうか。
他にも罪の意識に慄くクローディアス、秘密を知りながら何とか繕おうとするガートルート、有名な狂乱の場を与えられているオフィーリア、直情径行なレアティーズ、狂言回し的な先王の亡霊、哲学的な台詞の墓掘り人など主役から端役に至るまでどれも魅力的なキャラクターで歌手達にとりましてはやりがいのある仕事であります。
芝居と大きく異なる点はハムレットとオフィーリアの愛の二重唱があることとハムレットとポローニアスが死なないことであります。
特にハムレットが生きながらえることはイギリスでは容認されずに英米で上演されるときは死ぬパージョンで上演されることが多いようです。
オーケストレーションも美しくて何故この作品があまり上演されないのか理解に苦しみます。
では何故今までこの作品は冷遇されていたのでしょう?
トマのハムレットは19世紀のグランドオペラの伝統に則った生粋のフランスオペラであります。
確かに当時のフランスグランドオペラは代表的な作曲家であるマイヤーベーア、グノー、サン サーンスの諸作品でも忘れられた作品のほうが多いのは事実です。
グランドオペラを上演するには人員もお金もかなりの員数や額が必要ですので上演しにくいというのも原因の一つでしょう。
それよりも作曲したトマという人物に原因がありそうです。
トマは生前パリ音楽院長まで昇りつめた名士でナポレオン三世の覚えもめでたくまさに当時のフランス音楽界のドンでした。
そして当時パリで振興著しいヴァーグナーの影響からフランスオペラの伝統を守ることを使命としていたようです。それ故に新進気鋭の作曲家からは嫌われていて作品も時代遅れの陳腐なものと思われていたようです。
生前は作品も上演されておりましたがその死後はほとんど無視の状態で辛うじてミニヨンのみ歌劇場のレパートリーに残っている状態でした。
ハムレットはオフィーリアの狂乱の場のアリアとハムレットの酒の歌は単独でよく歌われますが全曲となりますと滅多に上演されません。
私も何年も前にアン デア ウイーンで観たのが最初でした。
ミンコフスキの指揮でシェーンベルク合唱団の力強い合唱、タイトルロールのデゴのかっこよさ、オフィーリア訳のシェーファーの知的な歌がとても印象に残っています。
METのインテンダント、ゲルブ氏が客席に居たのも懐かしく思い出します。
この度は縁がありこの美しいグランドオペラを上演することとなりました。
どうぞご見物よろしくお願いします。
オペラバフ 制作
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