三浦淳史さんと言ってすぐお分かりになる方は私と同世代か先輩でしょう。昭和に活躍した音楽評論家です。
若いころ彼の本は片端からすべて読みました。
英米の雑誌、新聞から丹念に取材して興味深い演奏家たちの情報を教えてくれました。
オペラの情報も多かったのも好きな理由でした。
また文章もハイカラで読みやすく大好きでした。
その中で忘れられない話が「レコードを聴くひとときⅠ」にあります。
「でも僕は夕暮れが好きだ」という話です。
ロンドンのロイヤルアルバートホールでのテバルディとコレルリのジョイントリサイタルに行く途中の2階バスの中である男がこういったのが聞こえます。
But I like sunset.
お分かりでしょうか?
この男もリサイタルに向かう途中なのでしょう。テバルディとコレルリのジョイントリサイタルは東京でもありましたからオールドファンでいらっしゃった方もおられるでしょう。
もう二人ともキャリアも終わりそうなときで往年の輝きは期待できなかったでしょう。
それでもチケットを買うこのイギリス人は駆け出しの頃からテバルディを聴いていたのでしょう。全盛期には徹夜で並んでコヴェントガーデンでのトスカのチケットを手に入れたのかも知れません。
ニューヨークやナポリ、ミラノまで彼女が歌うと知れば聴きに行ったこともあるでしょう。
キャリアの初期から引退まで寄り添う。日の出の美しさを知らないと夕暮れの美しさも理解できないということです。ファンはこうありたいものです。
最初にこれを読んだ時、ジーンとしてしばらく感慨に耽ったことを憶えています。
ファンも欧米では洗練されていますね。
こういった話が満載です。是非ご一読ください。
レコードを聴くひととき Ⅰ 1979年 Ⅱ 1983年 東京創元社
古書 各 1500円
この記事へのコメントはありません。