衣裳

トゥーランドットの衣裳

2023年の3月にプッチーニのトゥーランドットを上演予定の団体があり只今鋭意衣裳を制作中です。このオペラは言うまでもありませんがプッチーニの最後の未完のオペラです。
舞台は伝説の時代の中国とあるだけで具体的な指示はございません。
周知のごとく中国は約4千年の歴史があるとても古い国です。中国の古い時代の衣裳と申しますと皆様はどのようなものを思い浮かべられますか?

今のMETのトゥーランドットはゼフレッリ演出のものが上演されます。豪華絢爛,眩いばかりの舞台であります。人も沢山登場させて大スペクタクルを展開します。
ライブヴューイングや実演をご覧になった方も大勢いらっしゃるのではないでしょうか?
ちょうど2幕のセットの原型となったと思われる陶器のミニチュア人形を配した清朝期の
置物を見たことがあります。それはドレスデンの王宮博物館でした。
「あ!これだ!」と声が出てしまう程それは似ていました。
ご興味のある方はドレスデンで探してみてください。

ゼッフィレッリ自身がこの置物を見物したのかどうかは分かりませんが彼のイメージは清朝風俗でした。このように我々現代人がイメージする古い中国は実はそう古くない清朝期のものなのです。明治時代の日本と戦争した国ですからね。
トゥーランドットのイメージはそのまま女帝の西太后でしょう。彼女は皇帝ではありませんでしたが実権はありました。辮髪は満州人の風俗でした。厳密に言えば古来の漢民族のものではありません。
伝説時代ではなく近代の中国なのです。
ただ清の風俗は西洋人にとりましてかなり珍しいものでした。古い中国がこのイメージに集約されてもそれは無理もないことかもしれません。同じ東洋人の我々でもそうなのですから。

では衣裳はどうしたらいいのでしょうか?基本的には中国というだけで自由で縛りがないということです。清や明のもので統一してしまうのも一興でしょう。
もっと大胆に文化大革命時代の中国にしてしまうのも中国大使館のクレームを恐れない根性のある演出家が居れば面白いかもしれません。
江青のような眼鏡をかけた刈上げのトゥーランドットはちょっと衝撃ですね。
宮殿の正面には毛主席の肖像、民衆は国民服、人民解放軍、紅衛兵、少年団。
みんな毛語録の本を持っています。カラフはチベットの王族、ペルシャの王子はアメリカ人。これで上演したらクレームどころか北京から暗殺団が送られますね。
カーキ色の暗黒時代からフィナーレは色とりどりの衣裳のソリスト、合唱団が出て中国の明るい未来を讃えて幕切れとします。これでもやはりクレームでしょうね。
まあ冗談はともかく何でもありということでしょうか。

日本では中国のイメージは清、明の他は三国志、史記、水滸伝といったところでしょうか。
ただ物語はよくご存じでも衣裳のイメージは正直あまり思い浮かばないのではないでしょうか。
戦いの衣裳、甲冑はイメージできても普段着、特に女性の衣裳は思い浮かばないのではないでしょうか。つまり物凄く曖昧ということです。演出家、衣裳美術がいかにそれらしく創造できるかということでしょう。

ゼッフィレッリの豪華な衣裳のイメージを塗り替えることが将来できるでしょうか?

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