前回は若者3人の話をしましたが、今回は残りの大人たちの事を書きましょう。
夜の女王は、パパゲーナと同じように、モーツァルトの頃からの銅版画のイメージが強い、ロココ衣裳で登場します。強い女性の典型で、ヒロインを痛めつけようとする悪役です。ディズニーの映画で言えば、「眠れる森の美女」の魔法使いマレフィセント、「白雪姫」の継母、「百一匹わんちゃん」のクルエラ、「不思議の国のアリス」のハートの女王等、同じようなイメージを持つ女性達はたくさんいます。今回は、配偶者を亡くした後、その王国を守ろうと頑張っている寡婦という性格づけをしてみました。寡婦なので喪服を着ています。その王宮の女官達も倣って喪服です。夫を亡くした後生涯喪服で過ごした女性はたくさんいます。
場所も時代も違いますが、英国のヴィクトリア女王(在位1837年から1901年)は18歳で即位し、夫アルバート公との間に4男5女の子をなしましたが、1861年に夫を亡くしました。この時41歳だった女王は、その死去の1901年まで約40年の間、ずっと喪服で過ごしました。それは愛する夫を忘れないためです。でも夜の女王は少し違った意味を持っています。夫の生前には皇后だったのでしょうが、その死後、子供は王女のパミーナ一人で後を継ぐべき王子はいません。それで夜の女王が女王として即位したのでしょう。それは簡単な事ではなかったと思います。王国の人にいつでも前王を思い出してもらわなければなりません。喪服を着ることで国民に前王の事を思い出させるのです。王宮の女官達も女王に倣って喪服を着ています。
一方、ザラストロの王宮はどうでしょうか。こちらは普通の王宮というより、神官たちがいる、どちらかと言えば宗教組織の本部のような所です。言ってみればカソリックの人にとってのバチカンのような所です。
バチカン市国にはバチカンの神父様達の他に、その生活を支える様々な職種の人たちがいます。ザラストロの宮殿もそういった人たちがいたに違いありません。その頭がモノスタトスです。ただこのザラストロの国をシカネーダーはカソリックの地として想定してはいません。前から言及している銅版画にはエジプト風の建物と風景が描かれています。ピラミッド、オベリスク等いかにもエジプトです。ただ、神官が棕櫚の葉をもって登場してくる場面は、原始キリスト教団を思わせます。
そういえば、映画「ジーザスクライストスーパースター」の幕開けの場面が想起されます。あの有名な幕開きの、ヒッピーたちが、多分サイケデリックに彩られたワーゲンバスから、キリストがいる洞窟に棕櫚の葉を掲げながら集まって来る場面です。今公演ではエジプト風を目指すのではなく、他の宗教集団も想起させず、しかもいかにも神官という感じを出すために、白と金というコンセプトでデザインしてみました。そこに住む人たちも、西洋も東洋も意識させないものを考えてみました。で最後に残ったモノスタトスです。これは今までのコンセプトとはまるっきり違ったものを想定しています。これに関しては、ネタバレをしません。
是非劇場に足を運んで、ご自分の目でお確かめください。
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