まず魔笛の衣裳の話をする前に、私達が普段着ている服の話をしましょう。
ホモ・サピエンスになった私達の先祖は寒さ、暑さを避けるために服を纏うという事を始めました。その後、社会に種々の職業・階級が生まれると、服装はそれを象徴するものと成っていきました。服装はその人の属性を示す一種のシンボルとなって行ったのです。
では、オペラの衣裳の話を始めます。衣裳はその役を示すシンボルで、音楽と共に台本作者がその役を、一つのオペラの中でどう位置づけたのかを、側面から支えるものです。オペラは再現芸術なので、上演するときの、指揮者、演出家の実現方法、考え方によっても、どうシンボライズするのかは変わります。その世界観をあらわにするのが、装置であり衣裳であるのです。
舞台装置はその世界全体を表すのに対して、衣裳は個々の登場人物の性格、年齢を直接表現できます。また衣服というのは、その時代特有の流行というものがあり、端的に観客に今舞台で起こっている出来事がいつの時代かを示せます。例えば、ジーンズの裾が広がっていたら、ロングスカートやTシャツがサイケデリックな色合いだったら、あのフラワーチュルドレンの時代、70年代ですし、パニエが入った広がったスカート、男の子がリーゼントスタイルの頭だったら、大原麗子の若い頃、そう60年代です。他にも、例えば上下つなぎの作業服だったら、現場の作業員、制服系であれば、例えば警官、自衛隊員、消防署員、船員さん、航空機のパイロット、キャビンアテンダント等一目瞭然です。今私達が生きている時代の事なら、服装を見るとある程度のその人のバックグラウンドがわかります。
では、歴史時代はどうでしょうか。日本のそれなら誰でも何となくイメージできるでしょう。でも西洋のそれとなると、なかなかイメージできないでしょう。それを知るには、過去の人物が描かれた絵画、現代に近ければ写真を探すことになります。またそういう情報を集めた服飾図鑑が各種あります。どちらかと言えば、日本より、海外で出版されたものが多いようです。また日本にもありますが、服飾を集めた博物館もあります。私も海外に行くと、美術館、歴史博物館、服飾美術館などに必ず入るようにしています。また、スカラ座や、メトロポリタンオペラ等付属の演劇博物館を併設し、各種のデータや現物が見られるところもあります。そうしたデータをもとに演出家、舞台美術家と話し合いながら衣裳デザインを決めていきます。
次回は今回の公演「魔笛」の衣裳の話をしたいと思います。
スカラ座博物館
ロンドン肖像画美術館
ロイヤルアルバート美術館
メトロポリタンオペラ
ウィーン国立歌劇場博物館
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