皆様も西洋の宮殿や日本の城を見学したことがお有りでしょうがその庭園は例外なく広大で中には池や森があり小川が流れていたりするところもあります。
その広さ故に庭園は古くから密会、密謀の場所として利用されてきました。
フィガロの結婚やドンパスクワーレの最終幕は夜の庭園が舞台ですね。
さて、オスミンという男。
爺さんと言われておりますが当時の感覚としまして多分30歳代後半から40歳くらいではないでしょうか。
職業はセリムの宮殿の庭師であります。
庭師ですから植木の剪定、草刈り、掃除、花を育てたり、果物を収穫したりするのが仕事でしょうが果たしてそれだけでしょうか?
話は変わりますが江戸時代の八代将軍吉宗が紀州から連れてきた家来たちをお庭番として表向きは庭園の管理、裏で諜報の任務を与えていたという史実があります。
時代劇で殿様が庭を歩きながら独り言のように「尾張大納言を探れ」と呟き、影のように控えていた侍が消えるという場面がありますね。
まあこれはフィクションで実際は取次役の武士が任務を伝えたようです。
尾張名古屋でもお土居下同心という侍たちが居ました。
お土居下とは名古屋城の三の丸下の広大な庭園です。やはり彼らも広大な庭園の管理が表向きの仕事でしたが落城の際に藩主を木曽方面に逃がすという任務がありました。その方法経路などは一子相伝で秘伝でした。
このような事例を見ますと庭に関する職務の人は何か特別な任務を与えられていると思いたくなります。
もしかしたらオスミンもそうだったのかもしれません。太守セリム直属の密偵であります。
この男、抜けているようで案外鋭いことにお気付きでしょうか?
ベルモンテを異常に警戒しております。
セリムに「私の目と耳になる様に」との密命を受けていたのかもしれません。
そのヒントが台詞にあります。恋人たちの逃走を近衛隊長に知らせますが隊長から「お前は誰だ?」と尋ねられます。これは表に出ない存在だった証しです。
身分が低く近衛隊長は知らなかったのかもしれませんがそれではセリムは何故オスミンを知っていて直答を許しているのでしょうか?
またフィナーレでセリムがオスミンを諭して「お前は自分の目が可愛くないのか」と言います。これは「お前は私の目なのだから生かしておきたいのだ」という含みではないでしょうか。
ペドリロは策略でイスラム教徒のオスミンに酒を飲ませますがこれも穿った見方をすればペドリロの油断を誘うために戒律に背いて泣く泣くわざと飲んだのかもしれません。
正に一力茶屋の大星由良之助です。
ただブロンテには本気で惚れちゃうところは憎めないキャラクターです。
このオスミンというキャラクターはブッフォバスの典型ですがモーツァルトのオペラの中では珍しく唯一です。
とても魅力的なキャラクターでありますがこの存在がこのオペラの上演を難しくしている側面があります。
特に日本では真正のバスが少ないですから低い音がネックとなります。
これは初演者のルードヴィヒ フィッシャーが優れた歌手だったことに由来します。
モーツァルトは彼の声に合わせて曲を書いたのです。
ウエーバー、フリック、グラインドル、ベーメ。タルヴェラ、モル、リドルなどのドイツ系の名だたるバスがレパートリーにしております。
エマニュエル リストも得意としていたようですが録音がありません。
イタリア系のピンツァがアリアを歌った音源があります。今手元にございませんのではっきりしませんがイタリア語か英語でした。それでも上手いものでした。
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