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ツェルビネッタ嬢

一座の看板娘で座長、歌って踊れるスーパースターであります。
美しくて蓮っ葉。目立つ役です。

R・シュトラウスは劇中劇のオペラの中でかなり長い技巧的に高度なアリアを与えています。
古くはシュトライヒ、グリスト、近年ではグルヴェローヴァ、デッセイの当たり役です。

アリアドネが死を望む深刻なオペラセリアの中に唐突に登場してアリアドネをからかい、その気分を変えちゃいます。
すごく漫画チックでバレエ教師が序幕で言うようにこれがアドリブだとしますと正にアドリブの天才です。

多分ツェルビネッタはアリアドネに扮するプリマドンナよりも遥かに才能があり頭がよさそうです。

序幕で士官を軽くあしらい作曲家に秋波を送ります。
「派手なようで本当は孤独で寂しいの」という一言で世慣れない作曲家はいちころです。
R・シュトラウスはズボン役とヒロインの二重唱が好きですね。
序幕の幕切れ近くでツェルビネッタと作曲家の愛の二重唱があります。

作曲家はツェルビネッタの登場から「あのきれいな娘は誰ですか?」などと音楽教師に尋ねるのですから初めから気になっていたのですね。
ツェルビネッタは華のある目を引く存在でないといけません。

劇中劇のオペラでは演説のように雄弁で長大なアリアの後で男声四人組との恋の鞘当ての寸劇がありバッカスの登場と漫画チックな展開で劇が進行します。

バッカスとアリアドネは終幕に向かい愛の二重唱を歌いますがどこか作り物のようでツェルビネッタのアドリブは見事にその効果を発揮します。
そして終わり近くちょっと出て来て「新しい神が来たなら私たちは引っ込むわ」ととどめの台詞を言います。

そうです。見事に彼女は主役を取ってしまったのでした。
但しR・シュトラウスはアリアドネにも公平にアリアを与えていて主導権を渡さないような歌を歌えばそうはなりません。
見方を変えればまさに女の戦いのオペラであります。

私はこのキャラクターはコシファントゥッテのデスピーナと被ります。
世間智に長けていて男を転がし、己の境遇を深刻に悩む女を笑い飛ばし翻意させるところなどはデスピーナの孫娘と言われても納得できるでしょう。

R・シュトラウスが敬愛して止まなかったモーツァルトのオペラのキャラクターを思い浮かべながら曲を書いてもおかしくないでしょうしむしろかなり意識をしていたのではないでしょうか。
ただデスピーナよりはかなり性格が複雑で頭がよさそうです。

そう考えますとさしずめ作曲家はケルビーノでしょうか。

ツェルビネッタは最初に申しましたようにコメディデラルテ一座の座長であります。
よく日本の大衆演劇のドキュメンタリーに座長の役者が登場しますがあのイメージです。

しっかりしていて芸には厳しく弟子や字自分の身内で叱り飛ばし容赦なくビンタを張る。
うまくいったときは涙を流して弟子を抱擁し祝儀をまく。会場前に並んでいる客に一人ずつ丁寧に挨拶をする。客がどうしたら喜ぶか常に考えている。ざっとこんなイメージでしょうか。

私は喜劇役者の故藤山寛美がイメージできます。そういえば彼の娘も上手い女優さんですね。

多分ツェルビネッタもそんな人なのではないでしょうか。

 


黒人のスーブレット役、レリ グリストです。1960年代のツェルビネッタでした。

 


グルヴェローヴァです。このソプラノは説明不要でしょう。

 


ツェルビネッタに扮するグルヴェローヴァです。

 


1988年METのナクソスです。ノーマン、バトルの黒人ソプラノの共演でした。

 

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